
大漁ニュース 195号掲載(2018年)
北海道に次いで全国2位の漁獲量を誇る青森県のホタテ。下北半島と津軽半島に囲まれた陸奥湾は波も穏やかで養殖に適しており、八甲田山や白神山地の深いブナの森を通って流れ込む水にはエサとなる植物プランクトンやケイ素が豊富に含まれているため、陸奥湾のホタテ養殖は養殖といっても特別なエサを必要とするわけではなく、ただ陸奥湾の豊かな海で健やかに育てるだけ。稚貝も他水域から購入するわけではなく、陸奥湾の海水に採苗器という網のようなものを浸しておくだけで自然に採取できます。まさに自然の営みに逆らわない養殖なのです。
陸奥湾では13漁協がホタテ養殖を行っていますが、その方法は篭養殖、耳吊り養殖、地蒔き放流の3種類があります。陸奥湾に面した津軽半島東岸のほぼ中央に位置する蓬田村漁協では主に養殖籠を使った、1年育成のいわゆるベビーホタテの養殖が盛んです。
この蓬田村漁協で組合長を務める工藤徹さん(48歳)は、この地で漁業を営んで三代目。父親の代からホタテ養殖を始めました。父親が平成元年に進水させた45ft(4.3t)を引き継ぎ、エンジンを4回載せ換えながら30年近く乗り続けてきた工藤さんですが、今年からヤマハDX-51A-0C〈美代志丸〉に乗り替えました。

「自分にとっては初めての新造船だからね、妥協のないような艤装をしてもらったつもり」と工藤さんが胸を張る〈美代志丸〉の自慢は「なんといっても取り回しの良さ。前後にスラスターを入れたこともあるけど、キール船だから舵効きが抜群。ホタテ養殖の場合スピードを出す必要は無いけど、養殖篭を積む艏のスペースと作業性が重要。イケスなどのハッチは一切なくして、フラットなスペースを可能な限り広くしてもらって、そのおかげで作業性は格段にあがったね」と新造船には満足気な様子です。


取材当日の11月中旬、この日は奥さまの久美子さん(46歳)の他、4人の乗組員ともに、夜の2時出港。養殖篭は縦に10コ並んだ100メートルのロープを400~500本ほど吊したものが1セット。工藤さんのところではこれを36セット設置してあります。
「4月に採苗器を入れて、7月からお盆にかけて稚貝を養殖篭に入れて沈めるんです。10月から11月にかけて育った稚貝を1篭に15枚ほどに分散させて再投入するんだけど、このときに欲張ってたくさん入れると失敗する」
組合長ともなると、自分の船の仕事だけでなく、全国の漁連の会議や、地域のイベントなどにも積極的な参加が求められます。「まあ、成り行き上やることになったんだけど、やる以上はきちんとやらないとね」と、工藤さんはそれらの仕事も本業と同じように楽しんでいるように見えます。

