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小型定置網漁業(青森県むつ市大畑町)

DX-120-0A
第十八金城丸 小型定置網漁業

大漁ニュース 193号掲載(2016年)

対岸に北海道を望む津軽海峡に面した青森県むつ市の大畑町では、3軒の経営体によって小型定置網漁業が行われています。
主な漁獲はサクラマス、マグロなどの中型回遊魚、鮭。
そして冬季に水揚げされるスルメイカは年間水揚げのおよそ半分を占めるほどの主力となります。
今回は水産庁が進める「漁業構造改革総合対策事業」の一環で新造船を進水させた、大畑町の金城水産による小型定置網漁業をご紹介します。

抜群の安定性と走行性能を発揮する13トン型定置網漁船「DX-120-0A」
この日の水揚げは鮭が中心。

朝の6時、〈第十八金城丸〉(DX-120-0A)のエンジン音が静かな大畑漁港に響きます。
金城水産の社長で船頭を務める濱田英樹さん、その息子、取締役の濱田一歩さんら5名の乗組員を乗せると、〈第十八金城丸〉は舫いを解き放ち、港をゆっくりと出て行き、漁場へと向かいます。
目差すのは沿岸に設置された3基の定置網。
大畑には3軒の小型定置の経営体があり、それぞれが3基の定置網を管理。
設置する場所は決められており、3年ごとのローテーションでその場所を管理する経営体が変わっていきます。
この日の〈第十八金城丸〉は強い潮流と風向きの影響で、最初の定置の網起こしを断念。
二番目にやってきた定置網で操業を開始しました。
取材した12月の初旬、本来ならスルメイカの時期ですが、今シーズンは今のところ不漁続きとのこと。
その代わり、たぐり寄せた金庫網の中には大型の鮭が身体を踊らせていました。

各所に大幅な効率化と省力化のための工夫が施されている。
ユビキタス魚探は定置網の中の魚影のほか潮流の状況も自宅から把握できる。

2016年の秋に進水した〈第十八金城丸〉は水産庁が進める「漁業構造改革総合対策事業」の補助を受ける形で建造されました。
漁獲から製品・出荷に至る生産体制を改革して収益性を向上する漁業の改革計画や、新しい操業・生産体制への転換を促進する事業が対象で、〈第十八金城丸〉はそのための新たな艤装が施され、また、造船以外の分野でも新たな試みがなされているのです。
大畑漁港に浮かぶ他の定置網漁船とひと目で違いがわかるのは、艫に追加設置されたクレーン。
また、ツインキャプスタン、高圧ポンプ、たも網を不要とするイカ用のフィッシュポンプなど、大畑の小型定置網漁において省力化を推進する艤装が各所に施されました。
網にもさまざまな工夫が施されています。
大畑の海は潮流の変化と速度が激しく、そのために網の素材を形の崩れにくい、重めのものにしています。
金庫網はポリエステルからベクトランに変更。
型崩れだけでなく、トドなどの海獣の被害からも網を守ります。
網の目合いは大きめにすることで、潮流の影響を受けにくくすると同時に、結局は海に捨てることとなる小型魚の乱獲を防ぎます。
また、この補助事業に合わせて、定置網に最新のユビキタス魚探を設置。
これまで漁場に行って揚げてみなければわからなかった網の中の漁獲状況が、自宅にいながら市販の端末を介して判断でき、無駄な操業を減らすことにおいて省力化の一助となっているのです。

大畑の漁業の次代を担う濱田一歩取締役。DX-120-0Aの完成度には太鼓判を押す。
金城水産の濱田英樹社長。「次世代のために大畑を漁業で盛り上げたい」と語る。

そしてヤマハの「DX-120-0A」。
13トン型の定置網専用漁船でエンジンは650馬力の三菱製。
これまで使用していたDX-90に比べ、積載量も増え、安定した走行性能を発揮。
何よりも広々としたデッキで安定した作業が行えるようになりました。
大畑の定置網では、この日までスルメイカの不漁に悩まされていましたが、ここは我慢して待つのみ。
魚を一網打尽に捕獲する漁とは異なり、決して深追いをすることのない”待ち”の定置網が、環境保全型の漁業として再認識される理由の一つでもあります。
今後も省力化の効果や水揚げ高のデータなどを分析しながら、事業を進めていく金城水産。
濱田社長は「水産業で知られた大畑を、これからもなんとか盛り上げていきたい。次に続く若い世代のためにも頑張ろうと思います」と力強く語ります。