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実入りのいいウニを選んで獲るのがポイント(岩手県宮古市)

J-16ER
第一漁栄丸 実入りのいいウニを選んで獲るのがポイント

大漁ニュース 192号掲載(2016年)

2013年に大ヒットしたNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で、一躍脚光を浴びた三陸海岸のウニ。
三陸のウニが美味しいわけは、餌となるコンブなどの海藻類が豊富であること。
切り立った崖が続く三陸海岸は、海岸線まで深い森が迫っていることから、陸から流れ出すケイ素などのミネラル分が豊富で、質の良いコンブが育つといわれています。
三陸の澄んだ海を覗き込むと、コンブの上に乗っかったウニの様子が手に取るように鮮明に見ることができ、この海の豊かさを実感することができます。

〈第一漁栄丸〉の佐々木貴則さん

「あまちゃん」では、海女が素潜りでウニを採る様子が描かれていましたが、ドラマの設定どおり海女漁の大半は観光海女であって、通常のウニ漁は和船から箱メガネと長竿のタモでウニを獲るスタイルが一般的。
「あまちゃん」の舞台となった久慈市より約90km南に位置する宮古市でウニ漁を営む佐々木貴則さん(50歳)は、小学生の頃からお爺さんを手伝いながらウニやアワビの採り方をおぼえたのだと言います。
宮古水産高校野球部でエースだった佐々木さんですが、高校卒業後は漁師一筋の人生を歩んできました。
「漁師はサラリーマンと違って、やったらやった分が返ってくる仕事。浮き沈みはあるけれど、自分の性には合ってます」と佐々木さんは日焼けした顔で笑います。
宮古のウニの漁期は概ね5月の連休後から8月のお盆前後まで。
「その年によって多少ズレるんだけど、お盆の頃になるとウニの産卵が始まって、そうなるとウニの味が落ちるというんだよね」
漁期だからといって毎日海に出られるわけではありません。
「漁協が口開けした日だけ漁に出られるんですよ」
口開けとは解禁のことですが、その日の天候を予測して、波が高くて危険な日は口開けとはならないようです。
「漁獲量調整というよりは、漁業者の安全確保の意味合いが強いんじゃないかな。無理して海に出て命を落とすこともある仕事だからね。自分も2回ほど海に落ちたことがあるよ(笑)」
一人で海に出るウニ漁では、ライフジャケットの着用率はほぼ100%だといいます。

1日に認められた収穫はこの黄色いカゴ1杯分。実入りのいいウニを選ぶのが腕となる。
ウニのサイズを測るゲージ

資源保護という意味では、一日の水揚げは指定されたカゴに入るだけ(約30kg)。
漁師の腕の見せ所は、量を獲ることではなく、いかに実入りのいい個体を選んで獲ることができるか。
箱メガネを通して海底にあるウニの実入りを見極める、なかなか難しそうなことに思えます。
「ウニそのものを見て判断するというよりも、どういう場所にいるウニかで判断するんですよ。餌となる昆布やワカメがたくさんある場所にいるウニなら間違いない。ここ(漁港の岸壁の下)にもいっぱいウニは転がっているけど、こんなところのウニは大きくても実が入ってないよね。だいたいみんな自分のポイントをいくつか持っていて、そこを狙っていくんですよ」

昔ながらの艪を使って見せてくれた佐々木さん。艪だけとは思えないスピードが出る。

ポイントに着くと佐々木さんは船外機を跳ね上げ、箱メガネで海底の様子を探ります。
通常はエレキを使って船のポジションや向きをコントロールするのですが、この日は艪を使う昔ながらの方法を披露していただきました。
額を箱メガネに押しつけながら左手の艪で細かく船をコントロールし、右手の鉤竿でウニを探る様子からは、小さい頃から身体に染みついた熟練を感じられます。
「 震災直後は壊滅的だった海の状況も、去年あたりからほぼ震災前の状況に戻ってきた感じかな」と、気負うことなく海に出る佐々木さんの後ろ姿に、三陸の漁師の誇りが滲みます。