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家族愛と帆立愛。(北海道虻田郡洞爺湖町)

DX-97C-0A
第五 正福丸 家族愛と帆立愛。

大漁ニュース 186号掲載(2013年)

ホタテ養殖の作業が最も忙しくなるシーズンのある日、夜中の1時半。
静かな虻田の漁港にDX-97C-0A「第五 正福丸」のエンジンが響きます。
リモコンを使って舵を取る船頭は福島正和さん(32歳)です。
正和さんは高校卒業後、1年間、北海道の水産研修施設で学び、その後、すぐにホタテ養殖に従事しました。
「爺ちゃんや親父の姿を見てきたからね。迷いはなかった」と静かに語る表情には、家族で取り組むホタテ養殖という仕事への誇りが滲み出ていました。

作業場では浩二さんのご両親も90歳を過ぎてなお籠の修理などを手伝う。一代目の正雄さんは「ヤマハの船は最高だ」と太鼓判。

周囲を緑豊かな山々に囲まれた噴火湾は栄養分が豊富な水が流れ込み、良質なホタテの養殖場を形成しています。
正和さんの父親、浩二さんは昭和25年生まれの63歳。
ホタテ養殖発祥の地として養殖の試験が始まった昭和40年は、ちょうど中学を卒業した年。
以来、正和さんの祖父であり、浩二さんの父親である正雄さん(91歳)とともにホタテ養殖に携わってきたのです。
浩二さんは「家族で仕事ができることほど幸せなことはない」と語ります。
この日、夜の海には、迷うことなく後を継ぎ、いまや船頭として船を仕切る正和さんがおり、そして浩二さんと奥様も共に乗って作業を行い、陸に上がれば作業場で、正和さんの祖父母のお二人が養殖籠の修理を手伝う姿が見られます。
「うちの家族は、何があってもびくともしないよ」と浩二さんは胸を張ります。
「いまも90歳を超えて仕事を手伝ってくれている父親には本当に頭が下がる。もともと菓子屋の三男坊で、小さな和船を手に入れて一人で漁師を始めた。ホタテ養殖を始めて、事業を大きくして、新しい船を買い、家を建て、そして自分に引き継がせた。だから、息子にも同じようにしてやりたいと思った。頑張れば、それだけの成果があるということを分かって欲しかった」(浩二さん)
驚かされるのは、正和さんもまったく同じように感じていることです。
「うちの親父は本当にすごいと思う。ホタテ養殖は生き物が相手だし、時化の時以外は休むことができない。自分が覚えている限り、長い間、父親は旅行もしていない。それなのに、漁協の副組合長を務めたり、道の駅の経営に携わったり、いろいろな役を引き受けて、音を上げない。そうした姿を見ながら育って、こんなにいいフネを継がせてもらって、頑張らないわけにはいかないでしょう」

籠を引き上げて集めた1年貝のホタテ
ミミ吊りの準備でホタテ貝のミミに穴を開けていく。作業をするのは浩二さんの奥様。船でも活躍し、繁忙期は休む間もない。
ヒモに吊し、再びホタテを海に戻す。このあともメンテナンスを続けながら育て、1年後に出荷される予定。

この日は、1年かけて育てたホタテ貝の入った籠を引き上げる作業を明け方まで行いました。
そのあと作業場に持ち帰り、育ち具合によって選別した後、次の段階へ進めるために貝の「ミミ」に穴を開け、海中に吊すためのヒモを通す作業を進めていきます。
同時に、引き揚げてきた籠の洗浄も慌ただしく行われていきます。
朝食を済ませあと、ヒモを通した貝を再び海に戻すために船を出します。

正和さんの家庭には間もなく4人目のお子さんが誕生する。
正和さんの父、浩二さん。「ホタテの話をさせたら二晩三晩話しあかすよ」

「この5月の末から種付けが始まる6月にかけてが最も忙しい。明後日は一番下の息子の運動会があるし、もうすぐ4人目の子どもが生まれるし、今年は特に忙しい(笑)」(正和さん)
作業中に浩二さんが海から引き揚げたばかりの1年貝を剥いてすすめてくれました。
頬張ると、他では味わうことのできない独特の甘みが口中に広がります。まさに噴火湾の漁家が誇る絶品。
「 俺にホタテの話をさせたら二晩、三晩はとまらないよ。愛情のかけ方が違うんだよ。例えば一度ホタテを海から揚げると、ちょっとした風に触れただけで貝が渇いてしまって味が落ちる。籠から籠へ、籠からミミ吊りへ。移動させる時は本当に気を使う。その時の愛情のかけ方が違うのか、同じ噴火湾でも漁家によって甘みが違うという人がいる」
ホタテへの愛情。浩二さんの後を継ぐ正和さんはこのことをどう捉えているのでしょう。
「うちは貝を洗うのにだって、手間をかけて、柔らかい筆で洗ったりと、本当に優しく接しているんですよ。いつもホタテのことばかり考えています。 親父が言いう“ホタテへの愛情”って言葉、自分にも分かるようになってきました」
三代にわたる家族の絆と、自ら作る海産物への愛。
噴火湾のホタテの美味さの秘訣は豊饒の海だけではなく、そんなところにもあるのかもしれません。

安定性といい、広さといい、DX-97C-0Aは陸上の作業スペースをそのまま海に持ってきたかのよう。仕事も効率よくはかどる。
沖での作業を終え、港に戻る「第五正福丸」